| 奏楽の朝
足踏み板を交互に四回
リードオルガンに風を含ませる
足裏を押し上げてくる確かな抵抗
両膝をきっぱり広げスウェル板を外側に開く
A音から始まる今朝の前奏曲
風の音箱のなか葦笛がうたい出す
晴朗の音色ディアパーソン
エオリアンハープは竪琴
天使たちの声セレスタ
メロディア そしてヴィオラ
水辺のちいさな教会に
クララベラの鐘を鳴らそう
八十脚の椅子は子どもとおとなで満ち
中学生が長い四肢も伸びやかにあくびをしている
カスタネットとタンバリンを手に
幼い子らが立ち上がって出番を待っている
四角いアルミサッシの窓には
ふっくりした菫(すみれ)色のカーテン
白木の説教台には何の飾りもなく
屋根のてっぺんに組まれた木製の
白い十字架はまっすぐ天をさしている
線路脇の礼拝堂に 上り下りの列車は
地響きを立て通過を知らせる
足踏み板を交互に四回
飴色のオルガンの腹にたっぷりの青い風
あたらしい潮が礼拝堂に満ち
会堂を埋めたおとなと子どもは
讃美歌を両手にさざ波のように立ち上がる
指揮者の鋭敏な右手が吃水線を引くと
聖歌隊の肩と腰がいっせいに帆を張る
すべらかな鍵盤の海が瑠璃色に光る
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
大津市在住の詩人
北原千代さんの詩集
「ローカル列車を待ちながら」より
|